「ちいかわ」のポテンシャルを最大化した、すごい映画ビジネス
映画『ちいかわ』がすごい。
いや、映画として面白い。
それについては前回の記事で散々書いた。
音がすごい。
演技がすごい。
映画館で観る意味がちゃんとある。
正直、観る前は「1回観ればいいかな」と思っていた。
ところが観終わったら、
もう1回観たい。
となった。
これはかなりすごい。
なぜなら『ちいかわ』は、鬼滅の刃でも呪術廻戦でもない。
大迫力のバトルがあるわけでもない。
それでも「映画館でもう一度観たい」と思わせる。
一体、何をやったんだろう。
今回は作品そのものの感想ではなく、
なぜ映画『ちいかわ』は、ここまで強いコンテンツになっているのか。
プロデュースとビジネスの視点から考えてみたい。
結論から言う。
「ちいかわ」というコンテンツが持っているポテンシャルを、ものすごく丁寧に最大化している。
これが、この映画の強さだと思う。

- すごい点① ナガノ先生が、めちゃくちゃ映画にコミットしている
- すごい点② 「ちいかわを変えなくても売れる」と信じるすげぇ奴らの仕業
- すごい点③ 東宝の「劇場を押さえる力」
- すごい点④ 入場者特典が、とんでもない
- しかも、景品表示法というハードルがある
- そして、特典が「次の鑑賞」を生む
- すごい点⑤ 「映画館で観る意味」をちゃんと作っている
- 「ちいかわ」のポテンシャルを最大化した
- だから、もう一度観たくなる
- まとめ:『ちいかわ』というIPの力を、全部引き出している
すごい点① ナガノ先生が、めちゃくちゃ映画にコミットしている
まず、これ。
原作者・ナガノ先生の関わり方がすごい。
今回、ナガノ先生のロングインタビューも公開されている。
https://chiikawa.toho-movie.jp/interview/nagano.html
そこで語られているように、ナガノ先生自身が映画制作にかなり深く関わっている。
創作のクレジットを見ても、総作画監督と脚本を担当しているなど、かなりガッツリかかわっている。
映画の制作現場にここまで深く入り込む原作者は、そう多くない。
『AKIRA』など、非常に有名な例はあるけれど、基本的には原作者が映画制作のすべてに深く関わることが当たり前という世界ではない。
『ちいかわ』に関しては、
「ちいかわの面白さを一番知っている人が、映画作りにかなり深く関われる」
という形になった。その結果、みんなが観てぇちいかわに仕上げる最適解を引けたといっていいと思う。
すごい点② 「ちいかわを変えなくても売れる」と信じるすげぇ奴らの仕業
そして、もう一つ重要なのがIPをプロデュースしている会社の存在。
『ちいかわ』というキャラクターをビジネスとして展開していく上で、QTORYが主体となっている。
エンタメビジネスでは、
「この作品を、そのまま世の中に出して本当に受けるのか?」
という疑念が必ず出てくる。
原作をそのまま使うより、
「もっとこうした方が一般層に受けるんじゃないか」
「映画だから、もっと大きな物語にした方がいいんじゃないか」
「キャラクターをこう変えた方が分かりやすいんじゃないか」
という判断が入ることは当然ある。
それ自体は悪いことではない。
むしろ、それによって成功する作品もたくさんある。
『攻殻機動隊』なんかは分かりやすい例だと思う。
原作そのままではなく、別の形に翻案することで新しい価値を生み出した。
でも『ちいかわ』の場合、
「ありのままの『ちいかわ』を届けた方が絶対にいい」
という判断ができる人たちが、ビジネスをやっている。
原作の魅力を信じる。
キャラクターの魅力を信じる。
そして、それを変に加工しない。
簡単そうに見えて、ものすごく難しい。
なぜなら、ビジネスになるほど大きなプロジェクトになればなるほど、
「本当にこれでいいのか?」
という声が必ず出てくるからだ。
そこで原作を守り切れるか。
これはプロデュースの大きな仕事だと思う。
あともう一つ、QTORYというのは…
川村元気さんが作ったSTORYという企業が、ナガノ先生サイドに働きかけてできた合弁会社で、コンテンツプロデュース会社だ。
川村元気さんといえばプロデューサーとして『君の名は。』『天気の子』『すずめの戸締り』を生み出した、日本で一番のヒットメーカープロデューサー。
言ってしまうと「100億の届き方を知っている」人たちの仕事なんですよね。
すごい点③ 東宝の「劇場を押さえる力」
そして、認めたくないけど、やっぱりこれも大きい。
東宝が配給している。
映画館で上映する作品は、当然ながら「何回上映するか」がめちゃくちゃ重要になる。
1日1回しか上映されない作品と、1日10回上映される作品では、そもそも観客に届くチャンスが違う。
もちろん、昔から映画館と配給会社の関係は変化してきた。
シネコンが普及して、劇場側が上映回数を柔軟に決められるようになった。
ただ、コロナ禍を経て、この構造はさらに大きく変わったと思う。
その象徴が、
『鬼滅の刃 無限列車編』
だった。
映画館が非常に厳しい状況にある中で、圧倒的に期待される作品が出てきた。
だったら、
「他の作品の上映回数を削ってでも、この作品を上映する」
という判断が成立する。
実際に、ものすごい回数の上映が組まれた。
そして、それが大成功した。
以降、
「期待される作品には、とにかく上映回数を集中させる」
という戦略がより強くなった。
これを実現できるのは、やっぱり配給会社の力が大きい。
今年大ヒットした作品を見ても、全部が全部、1日何十回も上映されているわけではない。
ディズニー配給ですでに興行収入100億円を突破した『トイ・ストーリー5』ですら、一日に20回も30回も上映していなかった。
だからこそ、
「これだけ上映枠を取れる」
ということ自体が、映画ビジネスにおける大きな武器になる。
『ちいかわ』は、その武器を持っている。
すごい点④ 入場者特典が、とんでもない
そして、今回かなり驚いたのがこれ。
第2弾入場者特典、ボンボンドロップシール。
しかも、
ただのシール風グッズではない。
本物のボンボンドロップシール。
これは強い。
入場者特典というと、
「映画を観たら、おまけがもらえる」
くらいに考えてしまいがちだけど、実際には映画ビジネスにおいてかなり重要な施策だ。
映画を観る理由になる。
SNSで話題になる。
「欲しい」という感情を生む。
そして、
もう一回観に行く理由になる。
ここが大きい。
しかも今回は、ランダム特典ではない。
「何が出るか分からないから何回も観る」
という設計ではなく、
「これ欲しいから、もう一回映画館に行こう」
という設計になっている。
これはかなり強い。
しかも、景品表示法というハードルがある
ここは少しビジネスの話。
映画の入場者特典には、景品表示法による規制が関係してくる。
1000円以上の取引であれば、取引価額の20%まで。例えばチケット代を2000円としたら、400円。サービスデーで1100円もあるとしたら、220円のものまでしか配布してはいけない、という規制になる
つまり、
「映画を観てもらうために、好きなものをいくらでもおまけにつけていい」
というわけではない。
価格や提供条件など、いろいろな制約がある。
だからこそ、今回のボンボンドロップシールは面白い。
普通に考えれば、
「これ、結構なものを配ってない?」
と思う。
でも、大量に製造することで1個あたりの単価を抑える。
大ヒットが期待できる作品だからこそ、
「大量に作ることで、一個あたりのコストを下げる」
という戦略が成立する。
これは小規模作品ではなかなかできない。
そして、ボンボンドロップシール側にとっても、かなり大きな挑戦だったはずだ。
ここまでの数量を用意する。
映画の特典として使えるように調整する。
『ちいかわ』という巨大IPと組む。
これを実現するために、かなりの調整があったんじゃないかと思う。
誰が口説いたのかは知らない。
通常のちいかわのボンボンドロップシールが、これで550円。

https://qlia.shop/?pid=189151464
原価は不明だが、半分のシールの点数に抑えられているから、220円以下で作っているというのは理屈が立つ。
それにしても大量に生産することで何とか実現していると思われるので、規模のデカさにひるむことなく、やるべきことをやる胆力のある人が企画したんだろうな、と思われる。
そして、特典が「次の鑑賞」を生む
ここが一番面白い。
僕自身、
映画を観る前は、
「まあ1回観ればいいかな」
と思っていた。
ところが映画を観る。
↓
映画館で観るの、いいな。
↓
入場者特典がすごい。
↓
もう一回行こうかな。
となる。
これ、ものすごく綺麗な導線になっている。
つまり入場者特典が、
映画そのものの満足度をさらに引き上げている。
映画を観て満足した人に、
「もう一回映画館に来る理由」
を与えている。
これは入場者特典の力をかなり上手く使っていると思う。
すごい点⑤ 「映画館で観る意味」をちゃんと作っている
そして、個人的にはこれが一番重要。
『ちいかわ』は、
映画館で観る意味をちゃんと作っている。
何がすごいって、
音。
音楽もいい。
演技もいい。
でも、何よりSEがすごい。
これが映画館の大きなスクリーンと音響で浴びると、全然違う。
ここがすごく重要だと思う。
例えば『鬼滅の刃』なら分かりやすい。
大迫力の戦闘シーン。
巨大スクリーン。
大音量。
映画館で観る価値が直感的に分かる。
でも『ちいかわ』は違う。
「ちいかわを映画館で観る意味って何?」
という問いに対して、
「音」
という答えを出している。
これはかなり戦略的なんじゃないかと思う。
映像を巨大化するだけではない。
映画館の音響を最大限に使う。
SEを作り込む。
演技をしっかり聞かせる。
そうすることで、
「これ、映画館でもう一回観たいな」
が生まれる。
これは映画というフォーマットを理解した上でのプロデュースだと思う。
「ちいかわ」のポテンシャルを最大化した
ここまでをまとめると、
長野先生が深く関わる。
↓
原作の魅力を信じるIPプロデュース。
↓
東宝による劇場展開。
↓
強力な入場者特典。
↓
映画館で観る意味を作る音響設計。
これが全部つながっている。
どれか一つだけではない。
全部が噛み合っている。
そして、その中心にあるのが、
「ちいかわ」というコンテンツそのものの強さだ。
映画を作った人たちは、新しい価値をゼロから作ったというより、
すでにある「ちいかわ」の価値を、どうやったら最大限引き出せるか。
そこを徹底的に考えたんじゃないかと思う。
だから、もう一度観たくなる
僕はもう一回観に行こうと思っている。
そして、第3弾の入場者特典も気になる。
第2弾がボンボンドロップシールだった。
これより強いものを持ってこられるのか。
正直、分からない。
でも、たぶん何かやってくる。
なぜなら今回の映画は、
「どうすれば、もう一度劇場に来てもらえるか」
というところまで、かなり考えて作られているように見えるからだ。
映画を観て、
「面白かった」
で終わらせない。
「映画館っていいな」
と思わせる。
そこに特典で、
「もう一回来る?」
と背中を押す。
この設計が非常に上手い。
まとめ:『ちいかわ』というIPの力を、全部引き出している
映画『ちいかわ』がすごいのは、
単純に「ちいかわが人気だから」ではないと思う。
もちろん、それが一番大きい。
でも、
人気だから映画を作った。
だけでは、ここまでにはならない。
原作者が深く関わる。
原作の魅力を信じる。
強い配給会社が劇場を押さえる。
入場者特典を作り込む。
映画館で観る意味を音で作る。
そして、もう一度観たくなる導線を作る。
一つ一つを見ると、それぞれ別の施策に見える。
でも全部つながっている。
だから、
「ちいかわ」というコンテンツが持っていたポテンシャルを、最大限まで引き出せている。
僕はそこに、この映画の一番のすごさを感じた。
映画そのものも面白い。
でも、それだけじゃない。
この映画を「どう売るか」「どう観てもらうか」「どうもう一度観てもらうか」まで含めて、ものすごくよく考えられている。
そういう意味でも、非常に面白い映画だった。
さて。
第3弾の入場者特典、何が来るんだろう。
ボンボンドロップシールより強いもの。
あるのか?
……ちょっと楽しみにしている。


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